あの夏のキミへ
第十章  失態
院内に入ると真っ先に消毒の独特な匂いが鼻を突
く。

目の前には広いロビーがあった。

そこにはたくさんのイスが置かれ、その全てが診察待ちの患者で埋まっている。

その間を白衣を着た人たちが慌ただしく行き交う。

こんな大病院で人がたくさんいる中、1人でずぶ濡れで立っている私はさぞう目立つであろうな、と思っていたけど、みんな自分のことで精一杯のようで、私には見向きもしなかった。

いつもなら全く人に私のことを気にかけてほしくないのに、今は無性に気にかけてほしい気がした。

右手には田川から貰った付箋が包まっていて、そっと手を開くと付箋はシワシワになっていた。

ボールペンで書かれた字は水のせいで薄れていて、なんとか読める、という感じだ。

"東病棟502号室"

……これが蓮の…。

さっきとは明らかに違う心臓の鼓動を感じる。

でもここまで来たからにはもう後戻りはできないんだ。

意を決して足を進めた。
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