あの夏のキミへ
大病院のいいところは案内板が多い、ということだ。

病院が大きければそれだけ多くの案内が必要になることなのだから。

雨の雫が滴り落ちる頭を持ち上げ上をを見ると、無機質な白い天井にたくさんの案内板が下がっていた。

案内板の一つ一つを目で確認していく。

産婦人科…外科…診察室…トイレ…エレベーター…内科…

東病棟と書かれた案内板はない。

…どうすればいいの…?

誰かに聞く…?

誰に?

私、人見知りなのに…こんなところで、聞きにくいよ…。

でもここで諦められないよ。

その時。天井を見上げながら突っ立っていると、私の隣をナース服に見を包んだ少し背の高い女の人が通った。

チャンスだと思い、勇気を振り絞ってその人を呼び止めた。

「あっ…あのっ!」
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