あの夏のキミへ
クシュッ

エレベーターが動き出してすぐ、わたしはくしゃみをし、身震いした。

どうやら雨に濡れて冷えてしまったらしい。

「風引くわよ?あなたがなぜびしょ濡れなのかは知らないけど…ナースステーションに着いたら拭いてあげるわ」

そしてまた微笑んだ。

まだ会って間もないのに、わたしはこの人の笑顔が好きになった。

2階に着いた。

1人が降りた代わりに杖をついたおばあちゃんと、これまた点滴台を押しながら小学校中学年くらいの女の子が乗ってきた。

「あら時川さん、腰の具合はどう?」

看護師さんはわたしに向けたのと同じ笑顔をおばあちゃんに向けた。

「ふふ、あなたたちのお陰でだいぶ良くなってきたわよ」

嬉しそうに話すおばあちゃん。

「よかったわ!早く治るようにこれからもサポートしていきます」

「ありがとねぇ」

おばあちゃんはそう言って3階で降りてしまった。

「もちろん、理央ちゃんと光輝くんもね!」

そう言ってエレベーター内の点滴台を押した女の子と病院服を着た男の子にも微笑みかけた。

理央ちゃん、光輝くん、と呼ばれる子たちも微笑み返し、嬉しそうに「うん!」と言った。
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