あの夏のキミへ
じーっと見つめてみる。

すると彼はゆっくりとこちらを向いた。

わたしは慌てて目をそらす。

「光はさ、なんで死にたいと思ったわけ?」

「えっ…」

いきなりの問いかけに、ついまぬけな声が出てしまった。

「なんで?」

真っ黒の美しい瞳でわたしをまっすぐに見つめてくる。

そんな視線についつい胸がドキドキしてしまう。

「い、いじめられてるから。」

「なんでいじめられてんの。」

「両親が離婚して、母が酒に溺れたのを友達に話したら裏切られて、そこからクラス中に広まったの!だから死にたいの。悪い?」

「ふーん。」

なに、なに、何なの?!

いきなり聞いてきたうえに、どんどん話を掘り下げていくから、ついやけになって強く言ってしまった。

また…やっちゃったのかな…?

でも彼はそんなの全然気にしてない様子で、再び顔を窓に向けた。

そういえば、どのくらい電車に乗っているのだろう。

慣れない空間にいたせいで時間の感覚がマヒしてしまったらしく、さっぱり見当がつかない。

わたしも窓を見てみる。

………!!

一瞬目が見開いたのが自分でもわかった。

窓の外の景色は、さっきまでたくさんの建物でごったがえしていたはずなのに、いつの間にか一変して一面の海と砂浜だけが広がっていた。
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