あの夏のキミへ
「キレイ…」

思わず声が漏れてしまう。

あっと思った時にはもう遅くて、隣からだろ?という声が返ってきた。

恥ずかしくて顔を窓に近づけて、表情が見えないように努めた。

窓に顔を近づけてわかったのだが、線路わきに生えている草が、海の風に吹かれてそよそよと揺れていた。

「窓、開けてみるか?」

さっきより近いところから声が聞こえた。

びっくりして無言で横を向くと、いつの間にか彼の美しい横顔があった。

あまりの近さに心臓がばくんと音を立てる。

「えぇっ!あ、う、うん…。」

だめ、だめだよ、流されちゃ。

そう自分に言い聞かせて平常心を保った。

ホントは開けちゃいけないんだろうけど、誰もいないからいいよねって無邪気に微笑んで、スラリとした手で重たい窓を開けてくれた。

塩の香りとともに、心地良い風が吹き込んでくる。

若葉町ではけして感じることのできない風だ。

その風が、わたしの茶色がかったストレートの髪の毛を持ち上げる。

小さい頃からのわたしの唯一自慢だった髪が、いつも以上に素敵に見える気がした。

隣の彼の髪もふわりとたなびいている。

肌の色とは対照的な黒髪は、黒真珠のような輝きを放っていて、見とれてしまいそうだった。

そんな気持ちを振り払い、窓から顔を出してみる。

しかし、海岸沿いに線路はいつまでも続いていて、駅なんて全然ない。

「もう少しかかるんじゃないか?」

「…うん。」



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