あの夏のキミへ
満ち干きする波のざーんざーんという音が、電車の走る音とともにわたしの耳に流れこんでくる。

出てきたのが昼ごろだったから、もうしばらくしたら夕方になる。

「光の家は門限何時?」

「えっ、門限…?」

今まで門限なんて考えたことがなかった。

「…門限なんてないよ。うちのお母さんは酒に溺れて毎晩男の人と遊んで帰ってこないから、帰ってもいつも1人。」

「そっか。」

「キミの家は?」

そう聞くと、彼はふっと笑った。

「キミじゃなくて、蓮。」

「…んじゃあ…蓮…」

だんだん声が小さくなってしまった。

だって恥ずかしいんだもの。

男の子の名前をなれなれしく呼び捨てにするなんて、初めてだったのだから。

「よく出来ました」

嬉しそうな表情でそう言ってるのが聞こえた。。

ねぇ、連はどうしてそんなに素直なの?

わたしみたいな臆病者には羨ましくてたまらない。

こんな性格じゃなければ、こんなに悩まなくてすんだのに。

「で、門限は?」

この思いを紛らわそうと話を進める。

すると、連の表情は悲しい色に染まっていく。

…まただ。

さっきと同じ、あの表情。

「俺は…ないよ。」

それだけしか、答えなかった。
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