あの夏のキミへ
「…はぃ?」

「だからどっちにしろ今日は帰れないぜ?」

「えっと…」

わたしと蓮の間を塩の香りがする風が一瞬で吹き抜けていった。

「それとも…俺といるの、いや?」

そっ、そういうわけじゃない。

一緒にいたいというわけでもないけど、いたくないわけでもない。

ただ、変に意識しちゃうの。

蓮の空気にどんどん吸い込まれていく自分が…いつもの殻を被った自分が、コントロールできなくなって。

「…電車がこないのなら、しょうがないじゃん。」

「ふはっ、素直じゃねーな」

蓮は起き上がり、ぽんっとその大きな手をわたしの髪の毛をくしゃくしゃにした。

不思議と抵抗はなかった。

ただ蓮のにこにこした表情を、見ているだけであった。

海の向こうの空は、徐々にオレンジ色に染まっていくところだ。
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