あの夏のキミへ
どうやら店のシャッターを下ろすみたいで、店頭の物を片付け出した。

そのおばさんとバチッと目が合う。

丁度そのとき、わたしたちの存在に気づいたらしく、珍しげな顔を向けてきた。

「あら、こんな所に若い子たちが来るなんて珍しいわね」

ふわんとして優しい声だった。

「海を見に来たんです!」

蓮はそう言っておばさんのもとへ駆け寄っていったので、わたしもあとに続く。

暗くてよく見えなかったが、近づくとぼやけていたおばさんの姿が鮮明になってくる。

中肉中背で白髪混じりの髪の毛。

声から想像したとおりの、とても優しそうな人だった。

「夏休みなのに全然海に来る人がいなくて寂しかったのよ。ここは若者が都市部に出て行っちゃって、過疎地域になっちゃったのよね。」

ほんとに悲しそうにするおばさん。

「そうなんですか…」

それに合わせて相槌をうつ蓮。

「だからここはお年寄りの人たちばかりになってしまったのよ…。」

…過疎地域。

社会の授業で習った。

高齢者ばかりになって、うまくまわらなくなった地域の状態のことだった気がする。

って、本題はそれじゃない。

「あ、あの、わたしたち…食べ物を探しに来たんですけど、なんかありますか?」

人懐っこい蓮と、社交的そうなおばさん2人だといつまでも話が終わらないかもと思ったわたしは、強引に話を変えた。
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