あの夏のキミへ
「あら、じゃあちょうどいいじゃない!うち、お弁当屋だから、残り物でよければどうぞ」

強引に話を変えられたのにも関わらず、嬉しそうな口調で言った。

若者が来たのがよっぽど嬉しいのだろうか。

せっかくなのでお言葉に甘えて、ここで弁当を買うことにした。

蓮はというと、お店閉めかけてたのにすいませんねーなんて言って、ちゃっかりおばさんと仲良くなってた。

わたしにはない能力だ。

弁当は何種類か余っていて、わたしは焼き魚や漬物、白米…と、和食テイストの弁当を選んだ。

「あ、俺もそれで」

「はい」

同じ弁当をもう1つ取る。

流石に飲み物もないときついからって、透明の冷蔵庫の中に入っていたラムネも2本手にとりお会計をする。

料金は、残り物から選ばせちゃったからって少しまけてくれた。

どこまでも優しい人だ。

お礼を言って店を後にした。

そのときのおばさんの表情は、なんだかとても名残惜しそうだった。
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