桜*フレーバー
怜央は目線を食器棚の方に向ける。


「ペアの水玉マグカップ。あれ、買ったばっかだろ? 麻衣の性格からして、以前なら、最初にオレになんか使わせなかったと思う。西村のためにとっておいたんじゃないかな? けど、あんとき、麻衣、なんの躊躇もなくあのカップにオレの紅茶入れてくれたじゃん? もしかして、西村がここには来ないこと、わかってるんじゃないかって思ったんだ」


あたしは目を丸くして驚く。


「もー。怜央にはなんでもお見通しだね」


「おう。オレに隠し事はできないってこと。ちなみに、お前、ずっと引きこもってたんだろ? 飯もろくに食ってなさそーだし、もしかして窓もカーテンも閉じたまま?」

「えーと……まぁ、うん。その通りなんだけど……。って、ほんと怜央ってあたしのこと何でもわかるんだね」

「まぁな。オレ、魔法使いだし」

「もー。まだひっぱるの?」


文句を言いながら、あたしの中にはちょっとしたイタズラ心が芽生える。


あたしはじっと怜央の目を覗き込んで言う。


「ねぇ、怜央が魔法使いだって言うなら、あたしに魔法かけてよ。失恋を忘れられるような魔法」


そんなことできるわけない。だけど、あたしはあえて無理なお願いをしてみた。


すると、怜央は「んー……」としばらく考え込んでから

「失恋を忘れさせるのは難しいけど、麻衣を笑顔にするのはできるよ」

そう言ってポケットから何かを取り出した。


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