桜*フレーバー
それはどこにでもあるような、なんの変哲もない扇子だった。


怜央は右手で、パッと扇子を広げる。


「見てて」


そう言われて、扇子に気をとられた瞬間……

怜央がパチンと左指を鳴らす。


するとどういうわけか、彼の指先から小さなピンクの紙が飛び出した。

何枚も、何枚も……数え切れないぐらい。

次から次へと紙が溢れるように出てくる。

それを扇子であおぐ怜央。

まるで桜吹雪のように紙が宙を舞った。


「キレイ……」


あたしはその光景をうっとりと見つめる。

そしてひとしきり花びらを撒き散らした後、怜央は扇子を閉じると、ペコっとお辞儀をした。

あたしは思わず拍手。


「すごいすごい! 本当にキレイだった!」

「これだけじゃない」

「え?」

「まだあるんだ」


立ち上がった怜央が窓辺に近づく。


そして、勢いよくカーテンを開いた。


「あっ……」


窓の外には満開の桜。

夜の公園の明かりに照らされたそのピンクは、言葉を失いそうになるぐらいキレイだった。


「いつの間に……。ねぇ、これも魔法なの? 怜央が咲かせたの?」


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