桜*フレーバー
「んなわけねーだろ」


驚くあたしのおでこを、怜央はコツンと叩く。


「いくらオレでもこれは無理だっつの。ヒッキーやってたお前は気づいてなかったみたいだけど、この3日間、やたらと気温が上がってたんだよ。で、一気に咲き出したってわけ」

「そうだったんだ……」

「せっかくだから、夜桜見物でもする?」

「うん。するする」


怜央につれられて、あたしはベランダに出た。


「うわぁ……」


なんてキレイなんだろう……。暗い背景の中、薄ピンクの花が映える。

うっとりと眺めていると……。


「あ、あれ……?」


ポロリ。涙がこぼれて、頬を塗らす。


「ヤバイ。キレイすぎて涙出てきた。あははっ」


もーヤダ。せっかく泣き止んだのに、また泣いちゃうなんて。

あたしの涙腺、どんだけ緩いんだ。


はぁ……と息を整え、指で拭う。


「あたしが落ち込んで立ち止まってる間も、こうやって時間は着実に前に進んでたんだね」


そういえば、誰かが言ってたな。失恋は時が解決してくれるって。


今はまだ立ち直ったとはいえないけれど、この花が散って、緑の葉が生い茂る頃には、あたしの傷も癒えているといいな。


無理に忘れようとせず、自然体でいよう。

いつかきっと時間が解決してくれると信じて。


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