近頃、天然野郎が可愛く見えて仕方がない
プロローグ
コンプレックスって誰にでもあるよね。

このあたし、東雲幸にだってある。
それはもう背が低いこと。

高校生にもなってこの背の低さはコンプレックスどころじゃない。
むしろ恥。

昔からこの背のおかげで茶化されいじられ酷い目を見たもんよ。

だからかな、こんな性格になって男子に嫌悪すら持ったのは。
仕方ない、昔のトラウマってやつだ。

目も悪い所為か目つきも悪い。
いつの間にか「雪女」とまで呼ばれ…。

けど心機一転。
今日から進級して高校2年生!
気持ちをリフレッシュさせてまた高校生活を楽しまなきゃ!

って、そんなもの、叶いもしない願いなんだけどね…。

「はぁ……気持ちをリフレッシュ…?リフレッシュできっかクソが…高校生活は薔薇色だなんて誰が言ったんだよ…」

教室を前にしてブツブツと呟くあたし。
あたしを取り巻く黒い渦。
あたしの中の嫌悪が物理化するとは。

そんな事を思いながらも、ドアに手をかけるのが嫌で嫌で仕方がなかった。

うるさい教室。
耳に響く女生徒の奇声。
想像しただけで腹立たしい。

「……行くか」

決心し、ドアに手をかけたその瞬間、不意にドアが開いた。

…あたしまだ開けてないんだけど…。
いやそれより……。

ドアを開けたと思われる目の前の男子…身長2m近くはある……?
そう思うぐらいデカかった。

目からウロコをポロポロ零しながら呆気にとられるあたし。
見上げて首が痛い。

「あぁ、悪い。邪魔したな」

その男子はニコニコしたふやけ顔で道を譲った。
レディーファーストってのをよく分かってらっしゃるようで…。

「あ、ありがと」

「初めて見る顔だな。まぁこの学校広いからそれも当たり前か!」

あははっと大きく口を開けて笑う。
ここまで盛大に笑う奴もいるんだな。

「アンタこそ見ない顔ね…。てゆーかアンタ、あたしが怖くないの…?」

言いながらあたしは無意識にその男子を睨んでいた。

「怖い?なんで?怖がる理由が分からないな。それにお前の目、綺麗で俺は好きだぞ、東雲幸」

「なんであたしの名前…!あたしの事見るの初めてなんじゃなかったの!?」

人差し指を思いっきり目の前の巨人に突きつけた。
それでも笑顔は消えない。

「噂に聞いてた通り、目つき悪いんだなーと思ってなんとなく名前出したら当たってたんだな」

また笑い出す巨人。
なんかバカにされてるようでムカつく。

「何気に失礼なこと言うなアンタ。まぁ慣れてるからいいけど…。アンタ名前は?」

あらかじめ聞いておかないと、後で世話になるかもだからね。

「俺?俺は峰吉真尋。マヒロでいいよ。俺はお前のこと、サチって呼ぶから」

……不覚だが、こいつの笑顔が太陽に見えたというのはあたしだけの秘密だ…。





この時から「恋」とかいうのに落ちていたことを、あたし自身まだ気付いていなかった。
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