スナオ
 出会いは突然である。インターホンが不意に鳴らされるのと似ている。なので、インターホンから木村の一日が始まった。ドアスコープの先には長髪の男が立っていた。見るからにイライラとしているのが彼に伝わって来る。
「どちら様でしょうか?」
 掛けてはいけない声を木村は掛けてしまった。
 しかし、長髪の男は平然とこう言った。「救いにきた」、と。木村は何かに導かれるようにドアを開け、長髪の男と対峙した。
「俺は砂尾という。最初から素直にドアを開けろ。素直が一番だ。現代は簡便で楽をしようという傾向がある。それならそれでドアの一枚ぐらいとっぱらえ。俺の簡便とは、そういうものだ」と砂尾は捲し立てた。
 で、だ。根本的な問題は、「救いに来たとは?」と木村。
「お前は、いい切り返しを持っているな」と砂尾は顎を縦に二度振り、「だが、活かしきれてない」と木村は後に続いた。
 ザッツライト、と砂尾は人差し指を木村に突きつけた。そして、車のキーを持て、ボルヴィックのペットボトルを二本持ち、手を綺麗に洗浄して、駐車場に来い、と矢継ぎ早に指示を出す。木村は直感的に、指示を出すことに馴れているいるな、と関心と感嘆を示す。が、砂尾本人は既に背を向けていた。
 木村は車のキーをポケットに入れ、手を綺麗に洗い、ボルヴィックのペットボトルを冷蔵庫から二本取り出し、駐車場に向かった。そこには欠伸をした砂尾が木村の車のドアを蹴っていた。
「ちょっと、蹴らないでくださいよ」と木村が慌てる。
「すぐにいくぞ!人間皆平等だ?この世で時間は平等だ?笑わせるな。一人ひとり進むスピードは違うんだ。なら、早めに進んでみるのも面白いだろ。この世で怖いのは、後悔だ。だから早く開けろ」
 妙に納得してしまった木村は車のドアを開けた。
 木村は運転席に乗り込むなり、ボルヴィックのペットボトルを砂尾に手渡した。砂尾本人から礼はなかった。それは当然かもしれない。木村の心の内を察するかのように砂尾はこう言った。
「俺が礼を言わなかった?と思っただろ?いい判断だ。だがな、口に出さないで伝わらないものは、口に出しても伝わらねえんだよ」
「そういうものですか」と木村はエンジンを吹かす。
「そういうものだ」と砂尾が素直に断定し、「で、だな。お前の大事な瑞穂ちゃんだが、事故ったみてえだ」と木村の動揺を誘った。

 
 
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