チェリーな彼女
あまりに動かないから、ケーキになにかついているのかと思って、自分のケーキを食べながらさりげなく彼の皿を確認してみたけれど、とくに変わった様子はなかった。
どうしたの、と聞こうと思ったとき、ふいに彼が足元に置いてあったバッグの中から、手のひらくらいの大きさの長細い箱を取り出した。箱は、同年代の女性に人気の化粧品ブランドの包装紙で包んであった。
「これ」
彼は、その箱をすっとテーブルを滑らせてわたしのほうへ寄越した。
「なあに、記念日でもないのに」
贈り物をもらう心当たりはなく、しかもその店の商品はどれも安価ではないことを知っているから、受け取っていいものか迷う。すると彼は、
「記念日だよ。きみの家にはじめて来た記念日」
はにかみながら、そう言った。
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