1ページの物語
心からの敬意を
【心からの敬意を】
「泥棒!ちょっと待ちなさい!」
少年は逃げた
しかし、まだ10歳くらいであろう少年はすぐに捕まってしまった
「こっちに来な!何を盗んだんだ⁉︎」
少年の手には、2つのりんごがあった
「これを盗んでどうするつもりだったんだ⁉︎
言いなさい‼︎」
少年は俯いて答えた
「母さんと妹が…」
「ちょっと待った!」
1人の男性が声を上げた
「君のお母さんと妹はお腹を空かせているのか?」
少年は、小さく、しかし力強くうなづいた
すると、男性は懐からお金を出して、それを店の主人に渡した
「ほら、りんごだ 持っていきなさい」
少年は黙っていたが、やがてそれを受け取って走り去ってしまった
それから、30年後
男性は、自営業をして働いていた
もうすぐ20歳になる娘も一緒だ
しかし、ある日のこと
男性は倒れてしまった
重度の病にかかってしまったのだ
その治療費は莫大なものだった
「こんなお金…払えるわけないわ…」
娘は頭を抱えてしまった
その翌日
まだ目を覚ましていない男性のお見舞いへと、娘は向かった
男性のベッドの上には、1枚の紙が置いてあった
「これ…なんだろう」
そこには、治療費は既に払い済みになっているとの報告があった
それも、30年も昔に
「え…⁉︎どういうこと⁉︎」
驚きつつも、読み進めていくと、そこにはこう書かれてあった
"30年前のふたつのりんごにより、治療費は全て払い済み
あの時の感謝の気持ちは忘れません
心からの敬意を"
「あの時の…!」
娘は、不思議と笑顔になった