1ページの物語
星型のにんじん
【星の形のにんじん】
あれは俺が小学校に入学してすぐにあった、父母同伴の遠足から帰ってきたときのこと
母は俺が2歳のときに癌で亡くなったから来れるのは父だけだった
しかし、父は仕事で忙しいことがわかっていたので、一緒に来られないことを憎んだりはしなかった
一人でお弁当を食べる俺を、友達のY君とそのお母さんが一緒に食べようって誘ってくれて、寂しくもなかった
でもなんとなく、Y君のお弁当に入っていた星の形のにんじんがなぜだかとっても羨ましくなって、その日仕事から帰ったばかりの父に
「僕のお弁当のにんじんも星の形がいい」
ってお願いしたんだ
当時の俺はガキなりにも母親がいないという家庭環境に気を使ったりしてて
「何でうちにはお母さんがいないの」
なんてことも父には一度だって聞いたことがなかった
星の形のにんじんだって、ただ単純にかっこいいからって、羨ましかっただけだったんだ
でも父にはそれが、母親がいない俺が一生懸命文句を言っているみたいに見えて、とても悲しかったらしい
突然俺をかき抱いて
「ごめんな、ごめんな」
って言ってわんわん泣いたんだ
いつも厳しくって、何かいたずらをしようものなら遠慮なくゲンコツを落としてきた父の泣き顔を見たのはそれがはじめて
同時に何で親父が泣いてるかわかっちゃって、俺も悲しくなって台所で男二人抱き合ってわんわん泣いたっけ
それからというもの、俺の弁当に入ってるにんじんは、ずっと星の形をしてた
高校になってもそれは続いて、いい加減恥ずかしくなってきて「もういいよ」なんて俺が言っても、
「お前だってそれを見るたび恥ずかしい過去を思い出せるだろ」って冗談めかして笑ったっけ
そんな父も、今年結婚をした
相手は俺が羨ましくなるくらい気立てのいい女性だ
結婚式のスピーチの時、俺が「星の形のにんじん」の話をしたとき、親父は人前だってのに、またわんわん泣いた
でもそんな親父よりも、再婚相手の女の人のほうがもらい泣きしてもっとわんわん泣いてたっけ
良い相手を見つけられて、ほんとうに良かったね
心からおめでとう
そしてありがとう、お父さん