オレ様探偵とキケンな調査
「その気持ち」


「…え?」


「その気持ちは産まれてくることのなかった子供に届けたいとは思いませんか?」


気持ち…?


こんな醜い気持ちを、赤ちゃんに…?


「言葉としては届きません。けど、小さな仏壇に手を合わせてあげることぐらいはできるんじゃないですか?」


「あたしが…です、か?」


「あなたが流産させてしまったわけではありません。でも、少しでもその後ろを向いた気持ちを拭いたいのなら、その女性に鳴海さんの一言でいい、言葉を贈られるといいでしょう。

私もね、生きている妻には“ありがとう”も“すまない”も言ってやれず後悔したもんです。でもね、墓前に行くと自然と心に秘めていた言葉が束になって出てくるんです。遅いかもしれませんが、その言葉は天に届いているんだ、と、確信しています。

ましてや鳴海さんの事情だと、生きている女性が相手です。何か贈られてはいかがですか?」


言葉を…贈る…?


「今を逃すと、あなたは一生それを引きずって前には進めない、そんな気がします」


「前に…進む…?」


「鳴海さんはお優しい方ですから。その罪悪感から抜け出すには、あなたの真っ直ぐな言葉が一番の近道だと思います」


「あたし…由香さんに何を、どんな言葉を…」


「あなたが一番ご存じでしょう?」


「小松さん…」


あたしはスカートの上の拳にギュッと力を込めて立ち上がった。
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