オレ様探偵とキケンな調査
その夜、信吾さんから珍しく電話があった。


『椿?』


「なぁに?信吾さん」


『今日、来てくれたんだってな』


「ごめんなさい、留守中に。どうしても一言、由香さんにお詫びがしたくて」


『椿の何もかもを踏みにじったオレ達を…許してくれたんだな』


「由香さんと由香さんの赤ちゃんに気付かされたの。こんなあたし…信吾さんに捨てられても文句言えないね?」


『“捨てた”んじゃない。オレは“見つけてしまった”んだ』


「そうだ、ね。由香さんて素敵な方だね」


『なんか…こんな風に話すの、久しぶりだな』


「うん…。もっと早く声に出してお互いの気持ちを言い合えてたら…ううん、でもきっと結果は同じだね。信吾さんは由香さんを選ぶ運命だったんだ、って思う」


『由香への慰謝料…』


「裁判所で手続きしました。由香さんからは何ももらえないもの。あたしが赤ちゃんを…」


『それは違う。椿は何も心配するな』


「ねぇ、信吾さん?」


『ん?何だ?』


「由香さんのこと…幸せにしてあげてね?」


『わかった。椿も元気でな』


「うん、ありがとう」


最後の、本当に最後のお別れの電話。


何年も封じ込めてきたはずの温かい涙が溢れた。
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