オレ様探偵とキケンな調査
「オイ、あれ…」


帯金さんの鋭い視線の先を追うと、コートの襟を立てて歩く信吾さんが会社から出てきたところだった。


隣には───信吾さんの影になってよくは見えないけれど、背の低い、背中で巻き髪を踊らせている女。


───ズキン


わかってたはずなのに、いざ、2人肩を並べて歩く姿を見た瞬間、心臓をわしづかみにされたような鈍い痛みに体が固くなる。


「大丈夫か?」


「…ハイ。平気です」


「追うぞ」


あたしは何も言わず、帯金さんの後ろをついて信吾さんの後を追った。


歩く冬の道、会社帰りのサラリーマン達が多い中、信吾さんは隣の女に楽しげに何かおしゃべりしながら歩いてく。


あんな笑顔…あたし、随分前に見た気がしたけど、もう忘れてた。


女の顔を見下ろして笑う目尻。


行き交う人とぶつからないように女をかばって歩く素振り。


どれもあたしだけのものだったはずなのに。


今は全て、あの女に向けられている。


でも、なぜか嫉妬とか憎しみに気持ちは片寄らなかった。


しらけた気分。


今のあたしはそんな心境だった。
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