オレ様探偵とキケンな調査
「つくづくバカだ。悔しいとか腹立つとか、そんな涙はねぇのか、っつってんの」


「悔しい…?」


「あんな言い方されてさ。仮にもまだ夫婦だろ。旦那の前行って女ひっぱたいてくるぐらいの気持ち出せよ。このままじゃアンタもう、感情表に出せなくなっちまうだろ。何食っても旨いって言えなかったり、パトラッシュ見ても悲しいとか思えなくなっちまうんだぜ?」


「パト…ラッシュ…?」


「フランダースの犬だ。あの名作見ても泣けねぇなんて、神経切れてんぞ」


パトラッシュ…。


帯金さんに似つかわしくないその例えに、あたしは思わず笑ってしまった。


「フフッ…。なんでココでフランダースの犬なんですか?」


「じゃあ、赤毛のアンのマシューだ」


「…は?」


「アンの成長を愛しながら見守ってきたマシューは、持病の心臓病で突然死ぬ」


「なんですか、その世界名作劇場尽くし」


「何でもいいから泣け」


「泣け、って…。強要されても、帯金さんの例えじゃ笑いしか出てきませんけど」


「あ、そ。笑える余裕があるならいいな」


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