オレ様探偵とキケンな調査
2人が見えなくなっても、あたしは帯金さんの腕の中。


早鐘を打つ鼓動の音がどうか聞こえていませんように、と。


思えば思うほど、心臓はドキドキして止まらない。


こんなに直に人のぬくもりを感じたのは、いつぶりだろう。


人の匂い、人の鼓動、人の体温。


温かい感情が胸いっぱいに膨らんで、手放したくなくて、あたしは帯金さんにしがみつく。


締め付けられる腕の力が強くなり、短くした頬にかかる髪に帯金さんの吐息を感じる。


「椿の花の香りがする」


「…え?」


「微かに甘い」


こんなことを言われたのは、初めてだった。


香水もフレグランスも使わないあたしに、匂いなんてないと思っていたから。


いつもは毒舌の帯金さんのセリフに、手袋のない手だけが冷たくて、体を駆け巡る血が熱くなる。


───ぎゅっ


一瞬だけ息が詰まるほど抱き締められた後、帯金さんの体が離れた。


「悪りぃな。旦那が出てきたから、とっさにアンタを隠そうと思っただけだ」


「ハイ…」
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