オレ様探偵とキケンな調査
“椿”


その名前で自分を呼んでもらうのは、久々だった。


愛のない信吾さんからは、いつだって“なぁ”“オイ”。


近頃じゃ用件だけの会話にそれすら呼ばれることがなかったから、帯金さんのその声に、耳の鼓膜が嬉しく震えた。


「椿さ」


「ハ、ハイ…」


「子供いなくて良かったと思ってる?」


「ん…。もし、あたし達に子供がいたら…。こんな結果にはなってなかったかもしれませんよ、ね。でも、いても信吾さんを繋ぎ止められなかったのなら…いなくて良かったのかもしれません」


「なんで?」


「子供にまで寂しい思いはさせたくありません。こんな侘しさ、あたしだけで十分です」


「寂しさ、か…」


遠くを見つめる帯金さんのその呟きが、どこか切ない。


小松さんの話だと、過去に結婚歴があるような言い回しだった。


もしかして子供…いたのかな。
< 60 / 245 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop