おはようの挨拶とありがとうの花束を
おはようの挨拶とありがとうの花束を
最近、雅春との関係がうまくいっていない。ベッドの中で擦れ違う。譲歩し合っても達成感が得られない。それが日常生活にも影響を与えはじめていた。
今夜もやっぱり擦れ違い。浴びるほどキスをして、あんなにお互いの体に舌を這わせたのに。
「七海……、僕の事好きじゃない?」
「好きだよ。……好きじゃなかったらこんな事しないよ」
静寂したベッドの中で雨音のように、ぽつりぽつりと会話する。
汗が引いて冷える体。温もりを求めて手を伸ばした時、雅春が寝返りを打った。
背を向けられ、私の全てから雅春が消えていくような、そんな不安感がシーツの波間を押し寄せてきた。
『七海、別れよう』
幻を囁く不透明な声。泣きながら、逞しくて美しい背中に手を当てた。
「雅春」
「んっ?」
再びこっちを向いた雅春の体。ダークブラウンの瞳と蝶を思わせる長い睫。その瞳で見つめられると、余計に涙が溢れる。
「泣かないで」
「だって……」
「大丈夫。別れようなんて言わないよ」
雅春はそう言いながら私の細い体をぎゅっと抱き締めた。
冷えた体に体温が滲みていく。心が愛し合えるうちに体も愛し合いたい。
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