おはようの挨拶とありがとうの花束を
雅春と付き合いはじめて七ヶ月。最初の頃はうまく合致している、つまりイケていると思っていた体と体。だけど、お互いどこかで物足りなさを感じていた。
それは言葉にしなくても体を通して確実に切実に伝わってくる。
……多分、私のせい。
──初めての彼氏、慎吾ともそうだった。
残業の予定が、資料が間に合わず翌日に持ち越された日の事。
慎吾が女を抱いていた。
カラフルでポップな私の部屋で。
有り得ない状況に私は手に持っていたスーパーの袋を落とした。
筋でも切れたのかな……。
手に力が入らない。
「あれー、七海ちゃん、残業じゃなかったの?」
慎吾の悪びれた様子の全くない態度に背筋が凍った。冷や汗が額に浮かぶ。
私の衝撃なんてお構いなしに女は真っ赤な唇で気持ちよさそうに寝息を立てている。
裸の二人。
シーツがはだけていて、胸が見えている。残念ながら私より大きい。
なるほどね、慎吾の好み。
胸だけではなく、雪のように白い肌も、ウェーブがかかった茶系の長い髪も、派手な化粧も。
私は子供の頃から海が好きで、日焼けは一年中。髪は煩わしくないショートボブ。お風呂上がりもタオルでパサパサ拭いて、ブラシでとかして終わり。慎吾の好みには適していない。
そんな事だけは冷静に思えたのを今でもよく覚えている。
慎吾と女を残し、カンカンと鳴る線路沿いを歩いていると、無性に寂しさが込み上げてきた。
秋の夜風がアイシャドーのラメとコンタクトレンズを冷たくさせる。
踏み切りで立ち止まる。飛び込んだら、私のコンタクトレンズに映ってしまった寂しさも、たまらないほどの悲しさも、一瞬の痛さで終わりになるのかな。
そんな気持ちを赤の点滅がUターンさせた。