ニートな同居人
『ねえ、』
そう名前を呼ぼうとした時、ふと気付いた
『私、貴方の名前知らないんですけど』
名前を知らない事を
そう言うと彼は
「名前なんてどうでもよくない?アヤはアヤで。僕は僕」
――"僕"なんて言われても
『貴方の事を呼ぶ時、僕なんて言ったら可笑しいでしょう?』
ふん、と鼻で笑いつけると
「じゃあ"ユキヒコ"でいいよ」
『―――ッ』
私の大好きな小説の、作者
『…馬鹿にしてんの?やめて頂戴』
と言うと、じゃあニートって呼んでって笑いかけてきた
『ニートはちょっと…』
「―――嗚呼、もう面倒臭いなあ。ニトは?ニートってハズカシイでしょ?ハイ、ニトで決まりね」
今日から僕はここの家のニトだ!と決めているよう
『…貴方ね、本当の名前を大事にしなさいよ』
余計なお世話かもしれない、まるで自分の名前を簡単に決めてしまう彼に腹が立った
「―――アヤには関係ないことだろ」
『ッ』
今まで見せたことのない、冷たい目
怒りと悲しみを含んでいるようで――…
『そうね、ニト…
私もう仕事行くから』
そこから逃げるように、ふりふりと手を振ると
「ばいばあい!早く帰ってきてね!」
と元気よく手を振ってきた
まだ慣れないヒール履いて部屋に出た
そしてまた慣れないスマホに手を伸ばし時間を確認する
『――ヤバイ』
いつもより2本、いや3本遅い電車になっちゃうかな?
都内だから電車は数分で1本くるけど、会社につくのは8時30分頃…
嗚呼、真面目で静かな私のイメージが…
初夏、ブラウスを腕まくりして汗が流れる額にタオルを押し付けた
『ハァ、ハァ、ッツ――…』
徒歩10分なのに全速力で走ったら5分で着いた
この調子、この調子―――…
「―――電車が到着します。黄色の線に沿っておさがりください」
定期をさした時、丁度音が響く
『嗚呼、もう』
階段を登って第2ホームまでいかなきゃいけないのに
階段を登り2番ホームに行く階段を下りてる途中
―――ブシュー、と
『―――え…!?』
人生終了の音が鳴り響いた