ニートな同居人
取引
『うわあ…!』
思わず出てしまう声
目の前に大きなビルが広がる
知らない人にすれ違い様にチラリ、と見られた
田舎者丸出しのような気がして恥ずかしくなって下を向いたが
「――本当かっこいい…」
そんな声が聞こえて隣に立つ太田さんの事を見ていたのかと気付き更に体温が上昇していったのが自分でも分かる
"かっこいい"なんて言われ慣れているからかそんな事には全く気にせず歩き出した太田さんを追いかける
そして会社の入り口に向かう途中
「楠さん」
突然声を発するから、ピタリと足を止めたが太田さんは歩きながら話す気のようだったので少し小走りで隣に並び『なんでしょうか』と口を開いた
「――この取引が成功したら幾らくらいお金が動くと思う?」
そんな事を突然言われ、思わず考える
私なんて初対面な会社が同じなだけの地味な女を連れ出す取引なんてどうせもう決定間近か少し挨拶する程度なのかもしれない
『…1000万程でしょうか』
大金が動く取引でこの金額は低い方かもしれない
そう言うとハァ、と隣から大きな溜息
「君さ、ここは大手チェーン店だよ?馬鹿なのかな」
ふん、と小馬鹿にしたような声
そして金額は答えないまま黙って歩き出した
『ちょ…、幾らなんですか』
気になってしまい、でも金額は堂々と言えないのでコソコソと小さな声で聞いても、ハァ、とまた溜息
そして会社に入る直前
「―――5億」
そう彼が発するから
『えっ!?』
大きな声を出して立ち止まってしまった
突然立ち止まるせいで後ろにいた人にぶつかり、スイマセンと謝ると眉を寄せて睨みつけてきたが隣にいる太田さんの存在に気付くと
「平気です」
とニコリと笑って去って行った