ニートな同居人



コツコツと安物のヒールが地面を叩く




ハァ、と吐いた溜息は空中に消えて行った






楽しい事もない、友達もいない



『(仕事、辞めたい…)』


そう一瞬思ったけど、ダメだ、と思ってふるふると首を左右に振った





辞めたいと思っても辞める勇気なんてないし、仕事をサボる勇気なんてこれっぽっちもない






まだ慣れないスマホのホーム画面を開く



"――7月17日"



あ、今日私の大好きな小説家の本の発売日だ





駅内にある本屋さんに入り、好きな小説を買う





"ヨシヒコ"という作者が書く小説の世界観が好きだ



恋愛ものだったり、友情ものだったり、文章はこれっぽっちも汚くなくて

自然と心にスッと入ってくんだ





今回の新刊は、恋愛物




きっと素敵な話なんだろうな、なんて思いながら職場を出た時より軽い足取りで電車に乗り込んだ




帰宅ラッシュの車内はぎゅうぎゅうで、女性専用車両になんとか入る事が出来た





『(化粧と汗と香水の匂い)』


しょうがないけれど、女性独特の匂いに酔いそう…



なんとか空いた席に座って買ったばりの本を開封した





専属の絵師さんでもいるのだろうか、毎回表紙は優しい絵



顔は少しボヤけてるけど、セミロングの女の子と、ショートヘアで髪を少し遊ばせてる男の子が抱き合ってる絵だ






すごく綺麗な文章で、見てるこっちがドキドキしてしまう



って、恋愛なんてしたことがないけれど




「――お次は――――に止まります」

嗚呼、表紙見てたら最寄駅についちゃった






『…すいません、降ります』

うじゃうじゃといる女の人達に一礼して車内を出た



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