ニートな同居人





『――バッ、バカなんじゃないですか?わ、わた、私そんなに経済面余裕ないですし!』



親が農家だから野菜やお米とか仕送りしてくれるから、食費にはあまり困らないし仕送りは電車の定期代で消える。それ以外の携帯代、マンションの家賃、水道費ガス代もろもろ自分でお金を出している



高校生の頃、友達もいない私は勉強をするかバイトをするかの二択

そのバイトで出た給料は全部貯金



おかげでその貯金から携帯代は一括で払い、ある程度の家具をそろえる事はできたしまだ貯金も余ってるから今はやっていける


だけどこの先――…

何かあるかなんてわからないし







「えー、じゃあここの家賃いくら?」

住み慣れたのか知らないが、彼はリビングの椅子に座った




家賃なんて他人に言うものだろうか?

なんて思ったけど



『…12万』




この辺の物件の中間あたりの値段だ


だけど、徒歩10分にしては比較的に安い気がする







ふーん、と頷いた後、彼はバックからゴソゴソと封筒を取り出した




そして、ん、とその封筒を私に差し出す





『わ、な、なんですかコレ』



その封筒から透けて見える諭吉様

もうなんだか分かってしまったけど一応確認




「アヤにあーげる。同棲代」


…なんて、良く分からない事を言ったので、一応中身を確認する為に封をあけた







『え、と』


やはり中身は万札






「はい!契約成立!」


パン、と手を叩き立ち上がる彼に、え?と返した




「わざわざ封を閉じてたのに開けるって事は、アヤも俺と住んでもいいかな?って思った訳でしょ?そのお金は…んー、僕がバイトをして稼いだお金だと思ってくれればいいよ。っま、今はニート君だけど」


クスクス、と笑う"ニート君"は謎めいていて



お金をこっそり数えたら60万

――5か月の家賃だ




『こんな大金、受け取れません。封を開けてしまった事は申し訳ないと思ってます…、でも、ごめんなさい』


ペコリ、と謝ってお金を差し出した





「―――アヤってもしかして男の人知らないとか?だって僕がお願いすると女の子は目をハートにして喜ぶよ?お金を差し出したのもアヤが始めてなのに」


"――男の人を知らない"


確かに、そうだ


私は男の人を知らない





「さっき公園にいた女もそうだったよ。僕がお願いしたらわかったってすごい喜んでくれて。愛をあげたら嬉しくて泣きだして。僕の為だからって言って働いてた会社を辞めてキャバクラを始めて、それで綺麗なマンションに引っ越した。服も僕が欲しいって言ったらなんでもくれた。僕はそれで満足だったのに、彼女はフウゾクを始めた。それを知って嫌気がさしたんだよね。彼女は僕の為、僕の為と言うけど僕はそんな事望んでなかったのにさ。しかもフウゾク、なんて汚いデショ?僕は彼女を抱けなくなった。それで、居酒屋に行った帰り、彼女に別れ話を持ち込んだ時にたまたまアヤが通りかかったってことさ」


ベラベラと話出す彼にふつふつと怒りが湧いた






『――私は、そんな方とは違います。確かに、男の人は知りません!付き合った事もないです!でも、貴方のような最低な人は好きになりません!』


バン、と机い万札を叩き落とした



キリ、と睨みつけても彼は、ふーん、と面白そうに笑うだけ





「僕だって君みたいに地味な子に本気で好きになられたら困るもん。だって、小説内の恋愛しか知らないような子でしょ?」



『――ッ!』


図星をつきつけられ、カアアと赤くなる




「さっき持ってたのも恋愛小説でしょ?現実の世界は醜くて汚いモンだよ?甘い生活なんて小説の中だけ」

ハァ、とあきれたように溜息を吐く彼に何も言い返せなかった






「それに、僕は一定のとこに長時間いるつもりはないよ。長くて1年、短くて1ヶ月。とりあえずそこにあるのは5か月分の家賃、ってことはどっちにしろ僕は5か月以内にアヤの前から消えるよ。もしかしたら、明日出て行くかもしれないしでもお金はいらないよ。僕はニートだけどお金持ってるし、それにお金なんて必要じゃないから」


机の上に散らばる万札を重ねて、もう一度私の手元に渡した





『…』


「それにね、僕は頼まれなきゃ抱かないしキスもしない。ニートな弟程度に思ってればいいよ。まあ、同棲していくうちに会話は必要だからするけどね?」




そして、ス――、と手を差し出した





「契約成立、でいいでしょ?」



――嗚呼、もう面倒だ



そうね、好きでもない男が視界に入るのは少し抵抗があるけど、早く出て行ってくれたらそれはそれで貰った余りのお金でパーッと何かを買いに行こう

それに家賃が浮くから5ヶ月間は少し贅沢できるよね?

でも、お金を返せなんて言われた時の為にこのお金は一応貯金にいれておこう






―――5か月後の事なんて、想像つくわけもなく



『…分かった』



彼の手を、にぎり返した





「――契約、成立」




私とニート君の不思議な同居生活が、始まった
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