優しさ、そして愛

竣side




この日の俺は珍しく酔っていた




理由は杏さん





借り物競争のとき
彼女は俺の手を取った






握られた手は小さく
指は細かった





前を走る彼女や靡く髪からは
優しく甘い香りがした





ゴールしたあとに俺を見上げる
俺の腕にすっぽりとおさまるくらいに
小さかった






宴会と化した打ち上げの中
楽しそうに組員や若たち
蓮たちと話をしている杏さん






時折、目が合うと微笑みかけてくれる







そんな何気ないことでも
おれにとっては大切なものになっていた





1人になった彼女の隣に座ると
じっと見つめられた





熱を帯びた瞳で見られることに
喜びと戸惑いを覚えた 






話をそらすために酒を
飲みたいか聞いた







そこに来たのは弟だった






頭がよく何でも器用にこなすタイプ






見た目は結構似てるかもな







あ、こいつも酔ってんのか






そうはわかっていても彼女に自分の
飲んでいる酒をすすめ、顔を
近づけているのに腹が立ち気づいたら
俺も同じことをしていた






杏さんはどうしたらいいか
わからないといった表情で
その顔を見るとよけいに虐めたくなった






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