生意気なキス
部屋に帰って、すぐにジャージに着替えて、ご飯もおつまみも食べずに、缶ビールを一気に飲み干す。


二杯目のビールをあけながら、しばらく吸っていなかった煙草に火をつけた。

ヘビースモーカーではないけれど、私は喫煙者だ。


毎日数本という吸い方ではなくて、お酒を飲んだ時にたまに吸いたくなるときが多く、飲みながら吸うことが多い。

もちろん煙草の匂いがする美容部員なんて、だめなので、仕事の休憩時間は吸わない。


けれど、吸わないなら吸わない方が一番いいことは分かっている。
肌にも悪いし、体にも悪いから。


それは分かっているけれど、接客業でストレスがたまる仕事ということもあって、なかなかやめられない。

美容系の仕事をしているとはいっても、うちのデパートの美容部員を見ても、実際にはかなり喫煙率は高い。


煙草を吸ったからといって、ストレスが解消できてるのか分からないけれど、もうそうでもしないとやっていられなかった。


つい先日まで二人で住んでいた部屋を、たった一人で過ごすこと。
彼の方には、すでに新しい彼女がいること。

八年間付き合った彼氏と別れたからといって、売り場では笑顔でいなければいけないこと。


何があったとしても、毎日同じことを繰り返さなければいけない空しさを、私はただお酒と煙草でごまかすことしかできなかった。


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