生意気なキス
食堂で日替わり定食を頼み、それを持ってテーブルに向かえば、後輩の近藤さんがいた。


食事は終わったのか、テーブルの上は片付けられていて、こちらには気づかずに他の売り場の子と話している。



「それでぇ、うちの先輩、超厳しくってぇ。
この前もあたしが仕事でミスしたときに......」


「へぇー。たしかにアンタのとこの先輩キツそうだよね」


「そうそう、ミスしたあたしも悪かったけどぉ、もう少し優しく言ってくれてもいいのにぃ。
超こわいんだから」


「なんか分かるー。
あの人美人だけど、隙がなさそうっていうか、ちょっと絡みにくいよね」



控えめなピンクのネイルをいじりながら、近藤さんともう一人の子は私のことを噂していた。


言いたいことがあれば直接言ってくれればいいのに、こんなところで噂されているのも不快だし、間延びしたような甘ったるい話し方が、彼と一緒にいた女の子を思い出して、よけいに嫌な気分になる。


それに......、私にとっては普通に注意をしただけで、そこまで厳しくした覚えもない。


美容系の専門学校を卒業して、今年入社したばかりの近藤さんとでは、年齢も職歴も私の方が上だけど。

美容系の学校に通っていた近藤さんからは学ぶことも多いし、何か私が間違ったことをしたら遠慮なく言ってねって言っているのに。


それでも八歳も年上の私とは話しにくいのかもしれないし、若い彼女にとっては厳しく感じたのかもしれない。

年齢だけじゃなく、性格的にも。
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