生意気なキス
「それは、男に見る目がないよ。
こんなに可愛い人をフるなんて」


「可愛い?私が?
......そんなわけないわよ」



さっきも私を可愛いと言ったけど、可愛いという言葉が似合う人間でも、年でもない。
 
否定すると、彼は首を横にふった。



「可愛いよ。
彼氏のために多少無理してでも、がんばってたんですよね?」



それに気づかないなんて鈍い男だと、一人で納得したように、彼は頷いている。


こんなの、ただのリップサービスかもしれないけれど、それでも。

......嬉しかった。


彼のために美味しい料理を作っても、
綺麗でいる努力をしても、何をしても。

いつからかそれが当たり前のことになって、がんばってるね、綺麗だね、と誉めてもらえなくなった。


誉めてもらうためにやっていたわけじゃないけど、感謝されたくてやっていたわけじゃないけど。

ずっと寂しかった。


たった一言でも何か言葉をかけてくれたら......。

でも、私も素直にそう言えば良かったのに言えなかったから、悪かったのかもしれない。



「......口が上手いのね。
あなたみたいな人をフった彼女も、見る目がないと思う」


「まったくですよね」



謙遜もしないで、うんうんと頷いて、いたずらっぽく笑った巻き毛ちゃん。
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