生意気なキス
クリスマスまで残り三週間となった、ある日。

夕食後に大事な話があると、彼氏から改まって言われて、姿勢を正し、聞く。


私も二十八才、彼氏は三十才。
付き合って、もうすぐ八年。
いつ結婚の話が出てもおかしくない。


もしかしたらプロポーズされるかもしれない、なんてわずかな期待を抱きながらも、彼の言葉を待つ。



「別れたいんだ」



プロポーズどころではなく、まさかの予想もしていなかった別れの言葉。

すぐには信じられなかったけれど、今日はエイプリルフールでもないし、冗談を言っている雰囲気でもない。

何より彼の表情を見れば、本気だということが嫌でも伝わってきた。



「......そう。
どうしてか理由を聞いてもいい?
他に好きな人でもできたの?」


「そういうわけじゃない。
詩織は隙がなさすぎて、一緒にいると疲れるんだ。俺たち相性が合わないんだと思う。

詩織なら、俺よりももっと他にいい男がいくらでもいるよ」



八年も一緒にいて、今さら相性が合わないって?一緒にいて疲れる女と八年間も付き合って、ご苦労様と嫌みのひとつも言ってやりたくなる。


けれど、あまりのことに、動揺して、引き止めることも、嫌みも言えず。

ただ膝の上の手を握りしめて、次の言葉を探すことしか私にはできなかった。
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