生意気なキス
「やっぱり詩織はドライだな。
泣いてすがるような女じゃないとは思ってたけど、別れ話しても顔色一つ変えないもんな。
俺のこと大して好きじゃなかったんだろ。

それじゃ、おやすみ」


「......おやすみ」



いつのまにか荷造りを終えて、寝室から布団を持って、リビングへと出ていった元彼氏。


......ドライ?
だって、泣いてすがるような、みっともない真似できるわけないじゃない。

そんなことしたって、今さらどうにもならないでしょう?


それを冷めてるというなら、そうなのかもしれないけど、少なくとも私は彼のことが好きだった。


好きじゃなかったら、疲れて帰ってきて、毎日家事をする気は起きないもの。

一人で暮らしてた時は、もっと手を抜いていた。

好きだったから、たくさんのことを我慢した。


けれど。
大して好きじゃなかったと言われても、言い返すこともしないで、引き止めることもできず、涙一つ流せない自分は、やっぱり冷めてるんだろうか。


こうして、私たちの八年間はあっさりと、本当にあっけないくらいにあっさりと終わった。



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