はまきり
みんな、一歩も動かなかった。
当たり前だ。
きっと俺と同じで、みんな今まで普通に生活してきたんだ。
それなのにいきなり、妖怪が目の前に現れて、戦えなんて言われて戦えるわけがない。
神木だけは中原さんの隣に立った。
「ほらやっぱり、俺たち以外に自覚あるやついないんだよ。」
「…なんにも分からずにこいつら入学してきたのね。」
中原さんは小さく溜息をつくと、鵺を見据えた。
「来るわ!」
鵺が床を蹴り、雄叫びをあげながら中原さんと神木に飛びかかって行く。
床が震える。
中原さんは飛び掛かる鵺の頭を片手で受け止めると、反対の手でその顔面にパンチを入れた。
鵺は吹き飛ばされ、教室の黒板に当たる。
「凄まじい馬鹿力だな。」
神木がへらへらとしながら中原さんに拍手を送る。
「うるさい。油断するんじゃないわよ、まだあいつは生きてるんだから。」