はまきり




鵺の尻尾の蛇が、彼女の首に向かって伸びていた。


中原さんはまだそれに気がついていない。





「危ない!」


彼女のもとに駆け寄ろうとする俺より先に、隣にいた神木が飛び出していた。


神木が中原さんの腕を引く。


蛇が中原さんの首元に噛み付くのをぎりぎりで阻止することができた。


しかし、蛇は狙いを変え中原さんの左脚に巻き付いた。


足を取られ、バランスを崩しよろける中原さんに、蛇は容赦なく噛み付く。


「痛っ…!」


中原さんの白いハイソックスに血が滲んだ。


「うっ…あ…」


中原さんは苦しそうにその場に倒れた。


神木は彼女を抱え、鵺と反対の方向に駆け出した。


鵺が倒れているため、動けない蛇はゆらゆらと動きながら、俺たちを見ている。





俺たちの近くまで戻った神木はすぐに中原さんの靴と靴下を脱がせた。


「まずいな…毒だ。早く解毒しないと。」


クマのような大柄な男子生徒はひどくうろたえる。


「解毒って…俺たち医者でもないし…それに、1番戦えそうなこいつがこの調子じゃ俺たち…」


「解毒なら俺が出来る。俺は七歩蛇、毒蛇の妖怪だ。ただ…」


神木は倒れたままの鵺に視線をやる。


「あいつ、恐らくまた復活する。そしたらかなり危険だ。だから解毒する間、時間を稼いでほしい。」


「時間を稼ぐって…誰がやるんだよ、俺はやだぞ!」


クマが叫ぶ。


神木と中原さんが動けず、クマが囮を拒んでいる今、動けるのは無口な女子生徒と、しゃがみこんで教室の隅で泣いている派手な女子生徒…


そして俺だ。





女子2人に囮をやらせるわけにはいかない。


「俺がやるよ。」


「野添、いいのか?」


「足の速さには自信があるから。逃げ回って時間を稼ぐよ。」









< 32 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop