はまきり
それだけ言い残し、女子生徒たちは帰って行った。
「大丈夫?」
悠はスカートや手についた砂を払いながら立ち上がる。
「大丈夫です。慣れてますから。」
「なんかあったら言えよ。力になるよ。」
「ありがとうございます。…野添さんは優しいんですね。でも、大丈夫です。寮に戻りましょう。」
悠は1組らしく、F寮の前まで送り、俺はT寮の103号室に帰って来た。
「ただいま。」
「あ、お帰りなさい。」
ユキは台所に体を向けたまま、顔だけこちらを向けた。
「何してるんだ?」
「おやつ作ってるんですよ。夕飯のあとに食べようと思って。寮のご飯って少なくって。」
見ると鍋の中で大量のシチューが煮込まれている。
「そんなに少ないのか。」
「そうなんですよ。もっと増やしてくれてもいいんですけどね。」
ユキは口を尖らせながら鍋をかき混ぜる。
「そういえば野添さん、校内はどうでした?」
「あぁ、すごく広いんだな。案内してくれる人がいなかったら迷子になってたよ。」
「誰かに案内してもらったんですか?」
「1組の中谷悠に。」
途端に、場の空気が変わった気がした。
ユキは火を止め、こちらを向いた。