恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 あまりの恐怖に携帯電話を持つ手はブルブルと、膝はガクガクと震えた。崩れ落ちそうになるのを必死にガマンし二つ折りになっている本体を開くと、液晶画面を見た。すると、やはり電池は切れていた。だが携帯電話は動き、メールを受信している。
―命を奪おうとするものが、足音も立てず近付いてきている。少しずつ着実に…―
 気が付けば肩を激しく上下させ、ハアハアと荒い呼吸を繰り返していた。額には玉のような汗が噴き出し、脇の下、背中、手の中はタオルでぬぐわなければならないほど、ビッショリと汗をかいていた。
「悪霊が、メールを送ってきたんだね」
「…うん」
私は首を縦に振った。すると、こめかみから流れた汗が顎を伝ってポタリと床に落ちた。
 森田はふいに、ソロソロと寄ってきた。背中を丸め顔もロクに上げずに歩く姿は、まるで老人のようだ。
「…よかったら、見てもいいかな?」
「え?」
目の前で床に膝をつき、私が持った携帯電話に振れようと恐る恐る伸ばしてきた手の皮膚が真っ白でハリがなければ、本当にそう思うほどだった。それでも今、側にいてくれる彼がとても頼もしかった。
「僕、霊が見えるんだ。だから…何か役に立てるんじゃないかと思って」
「霊が見える?」
私はハッとして森田を見た。今の一言で良いアイデアを思いついたのだ。
(彼なら…森田君なら、できるかもしれない!)
だが悪霊は、ささやかな逃げ道さえ封じようとした。
「…け、携帯電話が、か、勝手に動き出した!」
何の操作もしていないのに、待ち受け画面のまま、まるで携帯電話が意志を持ったかのように動き出した。カーソルはスムーズに動き、メール受信の項目を選ぶと、ミチカの送ってきたメールばかり次々に開いた。
 しばらく見ないうちに、ミチカから来たメールは八十通にも達していた。
―春乃さん、救急車で運ばれたなんて大変でしたね。早く良くなるといいですね。でも、メールの返事はできるだけすぐ下さい。―
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