恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
大きな一歩
 私は森田に支えられながら、何とか学校を抜け出した。今日はもう戻らない予定だったので、帰り支度をして。
 敵が強いと悟った私は、とても一人では太刀打ちできないと思い、森田に助けて欲しいと頼んだ。霊感のある彼なら、お祓いできる人も詳しく知っているのではないかと考えたのだ。
 ただ、心はボロボロだった。すてきなメール友達だと思っていたミチカにだまされ、命を奪われようとしている。その事実がひどくショックだった。薄々感ずいてはいたが、目の前に突きつけられると、悲しかった。ウソを見破れなかった自分に腹がたった。
 ギリギリの線で持ちこたえているのは、香達を助けなければならないから死ねないという思いだった。
 だが、隣で支えてくれている森田を見ると、これでいいのかと疑問を抱いた。
(私、きっとひどい奴なんだろうな…)
恐怖にうちひしがれロクに歩けない私を、森田は慣れない手つきで必死に支えてくれている。額には、うっすらと汗が光っている。
 しかし私はまだ、初めて会った時彼に暴言を吐いた事を謝っていなかった。さっき心配して様子を見に来てくれた時も、悪霊に取り憑かれるかもしれないのに、勇気を出して携帯電話を拾いメールを見てくれた事に、お礼さえ言っていない。
(それってダメだよね。ちゃんと言わなきゃ)
街中に向かうバスの一番奥の席に座ると、森田は頬を赤くしたまま二人分空けて横に座った。そんな彼の横顔をチラリと見て、私は思った。
 深呼吸して意を決すると、鞄の中からハンカチを取りだし、森田の目の前に差し出した。森田はすごく驚き、ビクッと体を震わせた。しかし、ハンカチを持つ私の手もかすかに震え、心臓はバクバク言っていた。
 誰とも付き合った経験がないから、男の子と並んで座るだけで、ひどく緊張した。ブリッコしている女は嫌いだが、いざこういう状況になってみると、ブリッコできる余裕がある女子ってスゴイと思う。でも指摘されるのはイヤで、カモフラージュするよう仏頂面してみた。
 ハンカチを見た森田は、困った顔をしていた。
「あの…」
「汗、ふいて。…そんなに使っていないから、汚れていないと思う」
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