恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「あ、ありがとう」
森田は笑顔になると、とても嬉しそうに受け取って汗をふいた。その手は、かすかに震えていた。
「…寒い?」
「い、いや」
「でも、手が震えているよ」
「あの…っき、緊張しているんだ。女の子と二人で行動するのって、初めてだから」
「そう」
私は素っ気なく返事したが、本当は嬉しかった。彼が自分と同じ思いを抱いているなんて思わなかったから。もし彼が何事もなかったかのように受け取っていたら、こんな気持ちにならなかっただろう。
「あの…今川さん」
「えっ?あ、何?」
彼が私の名前を知っていることに、とても驚いた。まだ名乗っていない。いや、クラス名さえ言っていなかった。
「…ねえ、何でクラスとか名前とか知っているの?」
「ごっ、ごめん!あの、悪気があったわけじゃないんだけど…」
「別に怒っていないよ。ただ、何で知っているのかと思って」
「その、あの…い、今川さんが持っている携帯電話に、あ、悪霊が憑いているから、早く手放すよう説得したかったんだ。そ、それで初めて会った次の朝、声を掛けようと思ったんだけど出来なくて…今川さんが玄関で靴を履き替えていた下駄箱を見て、調べたんだ。あっ、あの時は、和やかには話せそうになかったから、後日機会を見て話しかけようと思ってさ」
森田は、さらに手をブルブル震わせて汗をふいた。
「あのっ!い、今川さん!」
「何?」
「この、は、ハンカチ、今日持って帰って、いいかな?」
「どうして?」
「た、沢山汗をふいたから、よ、汚れていると思うんだ。すぐ、あ、洗って、キレイにアイロンをかけて、返すから、い、いいかな?」
「気にしなくていいのに。ハンカチくらい、自分で洗うよ」
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