恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
ホースのように長く細く伸びた手が床にベチン!と音をたてて落ちると、私達は体をビクン!と震わせた。ミチカが体を元へ戻し、たれた前髪の隙間から濁った黄色い目でニラめば、恐怖で背筋がゾクッ!とした。
「マダマダッ!」
ミチカは再び両手を肩の高さまで上げ、一本の手を十本以上に分裂させた。手は指先からじょじょに黒くなり、両手ともすべて染まると、ウネウネと動き出した。
「さ、さっき見ていた魔界の入り口で蠢いていた手とそっくりだ!」
父は声を震わせて叫んだ。
「また襲ってくるわ、きっと。そしてグルグル巻きにして、口の中へ手を突っ込んで、魂を抜き取る気よ!」
母は体をガタガタと震わせて叫んだ。私も森田も父も、大きくうなずいた。
「行ケェーッ!」
とたん、ミチカは二十本以上に分裂した手を全部、すごい勢いで飛ばしてきた。
「キャーッ!」
私は再び目を閉じ、ボールのように体を丸めた。森田に加え父も守ろうとしてくれているが、もう人とは言えない体になったミチカを見たら、攻撃から逃れる自信が無くなった。母の言うように黒くなった手でグルグル巻きにされ、口の中へ手を突っ込まれ、あっという間に魂を抜き取られそうだった。
(もうダメ、今度こそ絶対死ぬ!まだ十七歳なのに、死ぬ!)
私は涙をにじませながら、心の中で叫んだ。
 ところがまたも、襲ってこない。誰かが襲われた気配すらない。恐る恐る目を開けると、目の前で予想外の事態が起きていた。
 ミチカは陰陽師を攻撃していた。式神が扮していた青い鳥を撃ち落としたするどい光で。
 黒い二十本の手は陰陽師を上から下から、さらに後ろからも取り囲み、豪雨のように激しい攻撃を浴びせていた。二十本の指先から発っせられる光は稲妻のようにまぶしく、目を開けていられない。あまりの激しさに、陰陽師は丸焦げになりそうな気がした。
「陰陽師、大丈夫かな?あんなすごい攻撃を受けて死なないかな?」
「俺たちなら、とっくにやられていそうだ」
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