恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
父は不安げな声で言った。
「化け物の手と、手から出ている光が邪魔して陰陽師の姿ははっきりと見えませんが、化け物が攻撃を止めないところから推測して、倒れずに戦っていると思います」
「で、でも森田君。一人で戦えるものなの?」
「ふつうの人なら戦えない。瞬く間に魔界へ落ちていると思う。たぶんあの陰陽師は、血を吐くような厳しい修行をして、高級な霊魂達に強力してもらえる契約を結んだんだと思う」
「すごい人なんだ。…じゃあ、何とか勝てるかな?」
「とにかく、陰陽師を信じよう。そして、彼が勝てるように念じよう」
「そうだ、森田君の言う通りだ。俺たちに化け物を倒す力はない。だが、念じる事はできる。強い思いを込めて念じれば、陰陽師を支えられるかもしれない。さあ、やるぞ!」
父は私の盾になるよう立ったまま顔の前で手を合わせ、陰陽師を見た。父の様子を見ていた森田や母も、同じように手を合わせた。私もつられるよう手を合わせ、『陰陽師が勝ちますように』と祈りを込めて見た。
 しかしミチカの指先から放たれる稲妻はいっこうに衰えず、同じ威力を保ち続け、黒い中にギラギラする光をまき散らした。やはり、ミチカの力はすごい。魔界の住人が従うだけの事はある。
 私はだんだん不安になり、直視していられず、チラチラと視線をはずした。
 すると突然、視界の左端に直径二メートルくらいの黒い円が現れだした。それは、さきほどまであった『アレ』だ。
「なっ、なんで?消えたはずじゃなかった?」
「どうしたの、今川さん。…あっ、魔界への入り口が、またできている!」
「何だって!」
森田の声に驚いた父と母は、森田が指さす方向、激しい戦いを繰り広げる陰陽師とミチカの左側に広がる床を見た。そこには十分ほど前、陰陽師が魔界の住人をやっつけ消した、魔界への入り口がポッカリと口を開けていた。信じられず食い入るように見れば、中からあの長くて黒い手がニョロニョロと姿を現した。
「どっ、どうしよう…陰陽師はミチカと戦っているから、こっちの方まで助けられないよ」
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