恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
私の悲しみをあおり立てるよう、黒い手が一本づつ父と母へ向かって伸びていく。その手は今にも口の中へズブリと入りそうだ。父と母の顔は恐怖に歪み、悲鳴を上げることさえできない。
(もうダメだよ、助からないよ…何が陰陽師よ、格好ばっかりじゃない!ぜんぜん中身が無いじゃない!)
ハラワタの煮えくりかえりそうな怒りをぶつけるよう、陰陽師をにらんだ。陰陽師はまだミチカと戦っていて、眩しい光の中にいた。とてもこちらを助ける余裕などなさそうだった。
「あっ…!」
そんな時、またあの青い鳥が飛んできた。迷うことなく父と母の方へ突進すれば、口をつかんでいた魔界の住人の手をスパッと切った。切られた手は痛いのか、ウネウネと激しく動き離れていった。そしてもう一羽飛んでくると、二羽で行ったり来たりしながら、父と母をグルグル巻きにしていた手を切断した。陰陽師を見れば、眩しい光の攻撃を退け、ミチカが伸ばした手を手刀ではじき飛ばした。そしてすぐ呪文を唱えると、ミチカを、彼女が背にしていた壁へ向かってブッ飛ばした。
『グォッ!』
飛ばされたミチカの体は、バンッ!と激しい音をたてて壁にぶち当たると、ゴム人形のようにボトリと床に落ちた。当たった壁は衝撃のすごさを物語るよう、クッキリと人の形にヘコんでいた。また、ミチカも横たわったまま微動だにしない。失神したらしい。 しかし陰陽師は来た時と少しも変わらず、クールな様でいた。余力は十分残っているようだった。
「父さん、母さん!」
私と森田は魔界の住人から解放された父と母の元へ走り寄った。父も母も床に座り込み、呆然としている。受けた恐怖が大きすぎて、すぐには元に戻れないようだ。
「母さん、大丈夫?立てる?」
「ええ」
「早く入り口から離れましょう。化け物がいつ襲ってくるがわからないので」
「そうね」
私は母の脇の下に手を入れ立たせると、できるだけ遠い場所にある壁の側で腰を下ろした。父は森田が支えてくれているが、足下がおぼつかない。ようやく母の側に腰を下ろすと、安堵するよう大きなため息をついた。二人はひどく疲れているように見えた。
 
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