恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 もうダメだ!とお思ったとたん、目の前で黒い手が止まった。なぜそうなったのか知りたくて周りを見回すと、陰陽師が再び印を結び、小声で呪文をつぶやいた。またも陰陽師が止めてくれたのだ。
 それにしても間近で見ると、よりいっそう気持ち悪かった。私は気持ち悪さに全身をブルブルと震わせた。
『クソッ!ナゼ攻撃デキナイ!』
ミチカとは違う野太い声が、悔しそうに叫んだ。黒い手が邪魔になり姿が見えないが、さっき攻撃の号令をかけていたこえから推測して、リーダーの少女に違いない。しかし陰陽師が宣言した通り力量の差は明白で、陰陽師が印を結んだ手を『ハッ!』と言う声と共に前へ押し出したとたん、四人は後ろへすっ飛び壁にぶつかった。
 四人同時にぶつかったせいか衝撃音はものすごく、今にも壁が崩れ落ちるのではないかと思った。
 思ってまもなく、四人は壁に人の形を残してドサドサッ、と落ちた。誰も立ち上がろうとしない。気を失っているようだ。しかし空気は張りつめたまま。私達はかたずを飲んで様子を見守った。
「なっ、何だこれ?」
突然、聞き慣れない男性の声が左の方から聞こえた。よもやお客がドーナツを買いに来たのかと思い見れば、ストリート系のファッションをした大学生らしき青年二人が、目をキラキラさせ、ガラスが割れた窓の外から見ていた。野次馬だ。
 青年達は野次馬の見本を体現するかにょうに、緊迫した状況をものともせず、軽い足取りで窓から入ってきた。まるで友達の家にでも遊びに来たかのようだ。
「うわっ!なんだなんだ。なんであんなところで黒い手がウネウネしてんだ。床に穴が空いているんだ。マジ、キモくねー?」
「あっちの壁見てみろよ。手がタコみたいに分裂した女がいっぱいいるぜ」
「チョーキモーい!あんな女とは、一億積まれても付き合いたくねぇ」
「だよな。アッハッハッ!」
私達は彼らの態度に憤りを通り越し、極度の心配にかられた。
「そなたたち、ここは危ない。すぐ立ち去りなさい」
陰陽師がたまらず注意した。すると青年達は大声でゲラゲラ笑い出した。
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