恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
(彼女を助けてあげたいけど、僕にはそんな知識も能力もない。あるのは自作のお守りだけ。…助けに入っても、ヘタをしたら僕まで命を取られてしまうかもしれない!)
すると突然、悪霊は森田を見た。墨を幾重にも塗り込んだような、真っ黒な体の不気味さを引き立てる、黄色くて血走った目で。
―コノ女ノ魂ハ、私ノモノダ!―
野太い声がそう叫んだ。森田の体は恐怖のあまりすくみ上がった。
「おにいちゃん、顔が真っ青だよ!本当に一人で帰れるのかい?」
声をかけてきた女性が慌てて言った。
(ええ、帰れます。…彼女を見捨てていけば!)
だが、森田はどうしてもできなかった。心が『彼女を助けなければ!』と必死に訴えている。他人と極力関わらないよう生きてきたのに、名前さえ知らない少女を助けたくてしょうがなかった。
 森田は着た半袖ワイシャツの胸の上からお守りを強く握りしめた。今頼れるのは、このお守りだけ。だが、手の中は恐怖のために吹き出した汗でビショビショに濡れていた。
(お守りよ、僕を守って下さい。彼女を守って下さい!)
「ちょっと、おにいちゃん。どこへ行くんだい?」
森田は鞄をおろし持ち手をしっかり握ると、歩行者用の信号が赤に変わったのに、全速力で駆け抜けた。恐怖のあまり全身がすくみ、思うように体を動かせなかったが、気合いで走り続けた。
 女子高生の前に着いた時には、フルマラソンでも走ったかのように荒い呼吸を繰り返していた。いつも以上に疲れているように感じる。
 しかし女子高生が様子をうかがうよう顔を上げたとたん、全てを忘れた。疲れがフッ飛んだ。
 そして心臓は…激しい衝撃を受け、一瞬活動を停止した。心停止した。

―頭の中が、女子高生の事で一杯になった。甘い疼きが、全身を駆け抜けた。―

すぐ側には怪物がいるのに、すごく彼女を助けたくなった。命をかけても、彼女を助けたかった。
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