恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
私達が何も言わず呆然と見ているのを確認したミチカは、満面の笑みで『ウフフ』と笑い、再び陰陽師へ向かって刀を振り下ろした。
「・・・!」
陰陽師の魂は、野次馬をしていた青年のように頭から真っ二つに切り裂かれ、粉々に砕け散った。
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
私は口元を押さえ、その場に座り込んだ。ショックのあまり、立っていられない。
 黒い手から解き放たれた陰陽師の亡骸は、顔が紙のように真っ白で、口や目を開けたまま前のめりに倒れた。ダンッ!と痛そうな音をたて床にぶつかっても、ピクリとも動かない。間違いなく死んでいた。
―頼みの綱だった彼が、死んでしまった。死んでしまった…―
 私も、森田も、父も、母も、全員死を覚悟した。助かるなんて、絶対思えなかった。
 私達の考えを読み取ったかのように、ミチカは一歩一歩軽やかな足取りで近付いてきた。まるで遠足に行く子供のように嬉しそうな顔だ。制服の袖から伸びる手が黒くなければ、何本にも分かれていなければ、目が黄色く濁っていなければ、ミチカの後ろから同じ姿の化け物が四人もついてこなければ、本当にそう思ったかもしれない。
 ミチカが目の前に来る寸前、父と森田が私の前に壁のように立ちはだかった。
「父さん、森田君。何しているの?」
しかし二人は答えない。両手を広げ、黙って立ち、ミチカをニラみつけている。二人とも陰陽師のように呼吸は乱れ、足はガタガタと震え、ひどく脅えているのに。
「いいよ、私の事なんか守らなくったっていいよ!」
二人にすごく申し訳なかった。救世主でも現れなければ、おそらく助からない。死に急ぐようなものだ。
 それでも二人は逃げない。ミチカが目の前に来れば深呼吸し、気合いを入れ直した。
「おい、化け物。聞いてくれ。お前にオレの命をくれてやる。だから、娘を助けてくれ!私は、人様に自慢できるような人生じゃなかったが、それなりに生きた。だが娘の人生はこれからだ。ここで散らすには惜しすぎる。どうか娘を助けてくれ!」
「父さん!」
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