恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「おい、化け物!僕たち全員、魔界へ落とすと言ったよな。だったら宣言通り、全員連れて行け!」
しかし私もミチカも答えない。ミチカは大好物にがぶり寄る子供のように目をキラキラさせ、黒い手を三本、私へ向かって伸ばしてきた。逃げないのを確認すると、口を二本の手でつかんで開けた。
「春乃、何しているんだ!抵抗しろ!本当に死んでしまうぞ!」
「いつもみたいに、ワガママ娘のように反抗しなさい!」
「やめろ、化け物!僕たちの魂をやるって言ったろ!今川さんを連れて行くな!」
三人はせっぱ詰まった様子で叫ぶ。だがミチカの動きは止まらない。私の口の中へ向かって、魂を抜き取るための手を伸ばしてくる。
「ヤメローッ!ヤメロ、化け物っ!」
「春乃を殺さないでっ!連れて行かないでッ!」
「クソッ、この手をほどけ。ほどけっ!」
私は人間の世界に別れを告げるよう、目をつぶった。さすがに手が口の中に入ってくるところは、怖くて見られなかった。
(ミチカ、ジラさずに一気にやってよ。私、短気なんだから、モタモタしていたら手をかみ切るわよ!)
とたん、ヒンヤリと冷たい物が口の中一杯に入り込んできた。口の端が今にも切れそうなほどの分量だ。ただ、指が奥の方で動いているのがわかる。ちゃんとした人間の手だ。
 私は苦しいながらもなんとか呼吸し、覚悟を決めた。
(バイバイ、父さん、母さん、森田君。親不孝な娘でゴメンなさい。嫌な娘でゴメンなさい。…もし生まれ変わったら、また父さんと母さんの娘になりたい。そして今度こそ、聞き分けのいい娘になって、父さんと母さんに親孝行したい。森田君にも優しくしたい!)
急に悲しくなり、涙が溢れてきた。涙は思いの外たくさん溢れ、頬を伝ってポロポロと流れ落ちた。
(それまで、少しのお別れだよ。私の事、忘れないでね。二人、仲良くしてね)
また一滴、涙が流れ落ちた。
「ダメだっ!ヤメロッ、春乃を連れて行くなっ!」
「イヤーッイヤァーッ!」
「今川さん、戻ってこい!化け物の言いなりになんかなるなっ!」
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