恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「お父さんの携帯電話は、リリコからのメールを受信したでしょ。彼女を知らなくても、受信したメールにはリリコのメールアドレスが載っているはず」
「それは、そうだけど…でも何でリリコにメールを送るんだ?」
「ミチカはリリコから来たメールの内容を聞いて、成仏すると言い出した。たぶんリリコがメールで『天国で幸せになって下さい』って言っていたから。だったら、ミチカを励ますメールを送ってもらえば、火事場の馬鹿力を出して、化け物達を退けられるかもしれない。そうしたら、成仏できるでしょ?」
「良いアイデアだ。さっそくやろう!」
私は父から携帯電話を借りると、目にもとまらぬ早さでメールを打ち出した。こんなところで携帯電話依存症と言う病気で培ったボタン早撃ちが、役に立つとは思わなかった。
 その間、ミチカはズルッズルッと音をたて、確実に魔界の入り口へ近付いていった。最後のあがきとばかりに指先から光を放ち、絡みついた住人やイジメッ子達の手を切るが、やはり絡んでくる手の数が多すぎて全てを断ち切る事ができない。ただエネルギーを消耗するばかりだった。
「ヤバイ、化け物の足が魔界の入り口にかかったぞ。まだ終わらないのか?」
「今、一生懸命やっているよ。あと少しで終わる」
冷静に答えつつも、内心は『間に合わなかったら、どうしよう』と言うプレッシャーに押しつぶされそうだった。不安で鼓動は早くなり、ボタンを押す手もプルプルと震えた。森田も、父も、母も、心配そうに見ている。
「おい、まだか春乃。化け物が魔界の入り口に膝くらいまでかかったぞ」
「もう少し!もう少しで終わるから!」
「下半身が、ほとんどかかったぞ。今にも落ちそうだ!」
「できたっ!」
私は急いで送信ボタンを押した。画面には『送信されました』と表示された。
「送ったよ。あとはリリコからの返信メールを待つだけ!」
「うん。ミチカも返信メールが来るまでネバってくれるといいんだけど…」
「あっ!」
私がしゃべり終えたとたん、ミチカはストンと魔界へ落ちた。あっけなく。
 
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