恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
森田と父は、私と母をグルグル巻きにしている魔界の住人の手を必死にほどこうとした。しかし、簡単にほどけない。ギュウギュウに巻かれているわけでないのに、ビクともしないのだ。森田も自前のお守りを住人の手にあてミチカの時のように溶かそうとするが、溶かしても他の手がどんどん絡んでくるので、いつまで経っても決定打にならない。いや、明らかに押されていた。
 ふいに後ろへグイッ、と引っ張られ、私も母も仰向けに倒れた。
「キャアッ!」
悲鳴を上げたとたん、どこかへ向かって、すごい勢いで床を引きずられた。
「ま、待てっ!」
父も森田も、グルグル巻きにされた私と母の体にしがみつき助けようとするが、大の大人四人を物ともせず、魔界の住人達は軽々と引きずっていく。
「ヤバイ、このままじゃ魔界へ落ちるぞ!」
父が叫んだ。私達は、焦った。普通の人間が百人束になっても勝てない相手。どうしていいか、わからない。
―このままでは、四人全員…死ぬ。―
(森田君の言うとおり、早く逃げればよかった。早く逃げていれば、違う霊能者を捜して、ミチカを成仏させる事ができたかもしれない。森田君や父さん、母さんまで、巻き込まなかったかもしれない)
激しい後悔の念にかられた。また、さっきすごく苦しい思いをしたのに、全く学習していない自分に腹が立った。私はあふれ出る涙と共に、心の中で謝った。
「…穴だ、魔界への入り口だ!」
だめ押しのように森田が叫んだ。とたん、頭は魔界の住人達がウネウネと手を動かす中へ突っ込み、心臓まで一瞬で凍り付きそうな冷たい風が髪をうねらせ、頬を撫でた。私は恐怖に全身を硬直させ、気絶するかしないかギリギリの精神状態で、魂を抜くために伸びてきた手を、食い入るように見た。
(もう、ダメだ。もうダメだ!)
私は絶対なる死を覚悟した。今度こそ、本当に助からない…
「やめろ!今川さんを連れて行くな!」
「母さんから手を放せって言っているだろっ!」
森田や父の焦燥感に駆られた声が聞こえた。しかし恐怖でパニックになった頭は、現実だと感じる事ができない。夢を見ているようだ。
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